確率解析②エクセンダール二章 数学的準備その一

実験の箸休めに少し読み進める。

 

2. Some Mathematical Preliminaries

 

2.1 Probability Spaces, Random Variables and Stochastic Processes

さて、ここから確率を扱う上で数学の基礎的な部分を順次定義していく。まず何といっても重要なのが測度である。現代的な確率論はルベーグ積分などでおなじみの測度論を基盤として発展してきた。

 

定義 2.1.1 (可測空間)

Ωを集合とし、その部分集合族をℱとする。ℱが以下の条件を満たすとき、ℱをσ加法族という。

(1) Φ∈ℱ

(2) F∈ℱ⇒Fc∈ℱ (FcはΩ\F)

(3) A1, A2, ... ∈ ℱ⇒A=∪{i=1から∞}Ai ∈ ℱ

ここで(Ω,ℱ)の組み合わせを可測空間と呼ぶ。

 

ℱは測ることのできる集合の集合。続いて確率測度を定義している。Pが(Ω,ℱ)の確率測度であるとはPがℱから[0,1]への写像で以下の条件を満たすことである。

(1) P(Φ)=0, P(Ω)=1

(2) A1, A2, ... ∈ ℱでi≠j⇒Ai∩Aj=Φが成立しているとし、A=∪{i=1から∞}Aiとする。

P(A)=Σ{i=1から∞}P(Ai)

 

歴史的には面積や長さというものの一般化が測度であるが、確率測度は生起する事象の"重さ"(確率)を与える測度である。P(Ω)=1という条件は除けば普通の測度になる。全体の重さが1になるように規格化された測度というべきか。最初にこの定義を見たときは抽象性が高く、実際にこれによって確率を記述できるのかなかなか不思議に思った。

 

この(Ω,ℱ,P)の三つのセットを確率空間と呼ぶ。完備確率空間とは任意のΩの部分集合で以下の等式を満たすような集合はすべてℱに含まれる、ということを意味する。

P*(G)=inf {P(F); F∈ℱ,G∈F} = 0

任意の確率空間は適切にℱに集合を足していけば完備確率空間にできる。

ℱが測ることのできる集合の集合ということをℱに属することをℱ-可測などという。ℱの元Fを事象といい、P(F)は事象Fが起こる確率、ということができる。またΩを標本空間と呼ぶ。P(F)=1をalmost surelyといってほとんど確実に起こるという。このalmostなんとかというのは測度論的な概念で、測度が0になるような集合の差は無視するというような考え方である。

この後、詳細な説明は割愛するが、どんな部分集合族でもそれを含む最小のσ加法族が構成できることや、開集合系からそのように生成されたσ加法族をボレルσ加法族でその元をボレル集合ということが書いてある。さらにY:Ω→R^nについてUが任意のR^nのボレル集合で、Y^(-1) (U)∈ℱならばYはℱ-可測である。逆にX:Ω→R^nからXを可測にするようなσ加法族を構成することも可能でそのようなσ加法族をℋXと表記する。このあたりは測度論の一般論。

そしてX,Y:Ω→R^nのとき、YがℋX可測であるための必要条件条件を述べたDoop-Dynkinの補題が紹介される。

 

さて、(Ω,ℱ,P)を確率空間としよう。これから散々出てくる三人組だ。ℱ可測なX:Ω→R^nを確率変数と呼称する。確率変数とはΩに属する標本を実数(多次元の場合もある)に移すものなのだ。そして、このXにより、R^n上に確率測度を定義することができる。

μX(B)=P(X^(-1) (B))

書いていないのdがBは任意のボレル集合だろう。この測度をXの確率分布という。XがR^nのどのあたりにどの確率で値をとるかを示すものである。確率変数や確率分布などの統計学で"何となく"扱ってきた概念をこう厳密に定義するのかと、数学には驚かされるばかりである。さらにXの期待値も∫Ω |X(ω)| dP(ω)<∞ならば

E[X]=∫Ω X(ω) dP(ω)=∫R^n x dμX(x)

と定義している。統計学などではほとんど最右辺の形式で確率的な計算を行っているが基礎としてあるのは真ん中の形式だ。

加えてボレル可測なf:R^n→Rに関しても∫Ω |f(X(ω))| dP(ω)<∞なら同じようにE[f(X)]を定義できる。

 

また独立の定義もしている。A,B∈ℱが独立とはP(A∩B)=P(A)P(B)が成り立つことであるなど。ここからは高校数学でもやるような内容ではないだろうか。二つの確率変数X,Y:Ω→Rが独立とはE[XY]=E[X]E[Y] (E[|X|]<∞,E[|Y|]<∞であるとする)が成り立つときである。

 

さらにここで確率解析では非常に重要な確率過程の定義もしている。

定義 2.1.2(確率過程)

確率過程とはパラメータ空間Tの各点に(Ω,ℱ,P)上で定義されたR^nへの確率変数を対応させたものである。次のように表す:{Xt}t∈T

Tは通常[0,∞)であることが多い。

確率過程はt∈Tとω∈Ωの関数と考えることができる。ωを固定してtの関数と考えたとき、Xtの道(path)と呼称する。

また、ここでω:T→R^nをω(t) = Xt(ω)と定義することができる。さらにσ加法族を以下のように表せる集合族から生成できる。

{ω; ω(t1)∈F1,...,ω(tk)∈Fk}, Fi (i=1,2,...,k)はR^nのボレル集合

これはℱに含まれる。また有限次元分布についての話も載っている。

 

最後にコルモゴロフの拡張定理の説明をして終わろう。

定理 2.1.3 (コルモゴロフの拡張定理)

任意のt1,t2,...,tk∈T、k∈Nに対しR^nk上の確率測度ν_(t1,t2,...,tk)が以下の条件を満たすとする。

(1) 任意の置換σに対しν_(σ(t1),σ(t2),...,σ(tk)) (F1×F2×...×Fk) = ν_(t1,t2,...,tk) (Fσ^(-1)(1)×Fσ^(-1)(2)×...×Fσ^(-1)(k))

(2) 任意の正の整数m∈Nに対してν_(t1,t2,...,tk) (F1×F2×...×Fk) = ν_(t1,t2,...,tk,t(k+1),...,t(k+m)) (F1×F2...×Fk×R^n×...×R^n) 

このとき、確率空間(Ω,ℱ,P)とR^n上の確率過程Xtが存在し、

ν_(t1,t2,...,tk) (F1×F2×...×Fk) = P[Xt1∈F1,Xt2∈F2,...,Xtk∈Fk]

 

添字が多くてわかりにくいが、添字を入れ替えたりする操作に不変で、R^nの重みを1とするような任意の正整数個のR^nのボレル集合を測る確率測度から対応するR^n上の確率過程を構成できる、ということである。この定理は非常に重要でブラウン運動の構成に用いられる。