宮寺関数解析を読む② Banach空間の例

Banach空間の例の紹介ののち、Hilbert空間が定義される。なぜLebesgue積分解析学的に取り扱いやすいのかというのも、ここで定義される関数空間なんかを見るとわかったり。

☍2 Banach空間の例

☍1においてBanach空間が定義されたが、ここではBanach空間の例を見て行く。

2.1. 数列空間

例2.1.

空間 R^ n

 n次元Euclid空間

各成分の二乗和の平方根をノルムとする。Minkowskiの不等式によって、三角不等式が示せる。

 (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i + \eta _ i|^ p)^ {1/p} \leq (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ p)^ {1/p} + (\sum^ {n} _ {i=1}|\eta _ i|^ p)^ {1/p} (p \geq 1)

さらにこれはノルムに関して完備。この証明は各成分が実数であるので、各成分に着目し実数の完備性を利用すればよい。

複素数も同様

例2.2.

実数列全体の集合は各項の和とスカラー倍を定義することで簡単に実線形空間にできる。

これの線形部分空間について考えていく。

収束実数列全体の集合を (c)と書く。ノルムを数列の上限とすると、これは実Banach空間になる。完備性を示すにはこれも各成分に注目し、実数の完備性を利用して収束先の実数列が存在することを示す。さらに、その実数列が収束列であることを示せばよい。

例2.3. (空間 l^ {p} (1 \leq p \lt  \infty))

 \sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ pを満たす実数列 x = \{\xi _ i\}全体の集合。Minkowskiの不等式から実線形空間であることが分かる。ノルムを以下で定義する。

 ||x|| = (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ p)^ {1/p}

これにより実Banach空間になる。Cauchy列の収束先は各項の収束を利用して存在を示す。収束先が l^ pに含まれる証明は、収束先とCauchy列中の点の差が l^ pに含まれることを利用。

例2.4. ( l^ {\infty})

有界な実数列 x=\{ \xi _ i \}に対し、 ||x|| = \sup _ {x} |\xi _ i|でノルムを定義。これはBanach空間になる。

Jensenの不等式 (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ q)^ {1/q} \leq (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ p)^ {1/p} (0\lt p \leq q\lt \infty)より、 (l^ q) \subset (l^ p)  \subset (c) \subset (l^ \infty)

2.2. 関数空間

例2.5 (空間 C[a,b])

有界区間 [a,b]で定義された実数値連続関数の全体。実線形空間にできる。数列空間の連続バージョン。

ノルムを上限で定義すると実Banach空間になる。数列空間と証明の戦略は基本的には変わらない。閉区間なのは上限の存在を保証するため。

例2.6. (空間 L^ p (a,b) 1 \leq p \lt  \infty)

区間 (a,b)において定義された可測関数 x(t)が、

 \int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt \lt  \infty

を満たすとき、p乗Lebesgue積分可能という。このような関数全体の集合はノルムを ||x|| = (\int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt)^ {1/p}とするとBanach空間になる。これも連続版のMinkowskiの不等式等を通じて示すことができる。Cauchy列の収束先がp乗Lebesgue積分可能であることはFatouの補題、優収束定理で示す。関数の極限を取ったときの操作のしやすさがLebesgue積分のよいところである。

例2.7. (空間 L^ {\infty}(a,b))

本質的有界とは測度0の集合を除外したところで有界であることである。 \mathfrak{N} (a,b)に含まれる測度0の集合の集合族とすると、本質的上限は。

 \rm{ess} \sup _ {t \in (a,b)} |x(t)| = \inf _ {N \in \mathfrak{N}} \sup _ {t\in(a,b) \backslash N} |x(t)|

と定義される。 (a,b)で定義された可測かつ本質的有界な実数値関数全体の集合を L^ {\infty}(a,b)で表し。本質的上限をノルムとするとBanach空間となる。

ここまで、関数空間を見てきたが、 (a,b)有界区間のとき数列空間とは逆の包含関係が成立する。Hölderの不等式

 \int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt \leq (\int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt)^ {1/p} (b-a)^ {1-p/q} \lt  \infty

2.3. Hilbert(ヒルベルト)空間

いよいよHilbert空間の登場である。Hilbertといえば20世紀初頭の数学をリードした大数学者で、形式数学を強力に推進し、今日の数学のあり方に大きな影響を及ぼした人物だ。関数解析でもこのHilbert空間は主要な研究対象として大きなウェイトを占める。

定義2.1.

内積の定義。

複素線形空間 Xの任意の2元の組 \{x,y\}と実数 (x,y)が対応し、以下の条件を満たすとき、この実数を x y内積という。

  1.  (x,x) \geq 0 : x=0 \Leftrightarrow (x,x)=0
  2.  (x,y) = \overline{(y,x)}
  3.  (x+z,y)=(x,y)+(z,y)
  4.  (\alpha x,y) = \alpha (x,y)

このような内積の定義された空間を内積空間という。

高校のベクトルからの付き合いのあの内積の一般化。実線形空間でも同様に定義可能。

この内積に関してもSchwarzの不等式が成立する。

 |(x,y)| \leq \sqrt{(x,x)(y,y)}

証明はややテクニカル。

 (x+ \lambda (x , y) y,x+ \lambda (x,y) y)が任意の実数 \lambdaに対して0以上であることを利用する。

ここで、 ||x||=\sqrt{(x,x)}とすると、これはノルムの公理を満たす。 ||x+y|| \leq ||x|| + ||y||はSchwarzの不等式から導ける。

定理 2.2.

ノルム空間 Xにおいて、 ||x||=\sqrt{(x,x)}となるような内積を定義できる必要十分条件は、 \forall x,y \in Xに対して、

 ||x+y||^ 2 + ||x-y||^ 2 = 2 ||x||^ 2 + 2||y||^ 2

が成り立つことである。

証明法は、仮にそのような内積が存在すればノルムのみでどのような形で表されるかを考えてあげればわかる(多分)。スカラー倍の部分だけ、有理数倍、実数倍へと拡張する議論が必要。

定義 2.2.

内積空間 Xがノルム ||x||=\sqrt{(x,x)}に関して完備であるとき、 XHilbert空間という。

例 2.8.

 l^ 2 L^ 2(a,b)はHilbert空間。他にはユニタリー空間やEuclid空間も。


余談

はてなLaTeXがこんなに不自由だったとは。

いろいろ処理に苦労しました。

次号

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