宮寺関数解析を読む③ 線形作用素

線形作用素のお話。基礎作り。

第2章 線形作用素

☍3. 線形作用素

3.1. 線形作用素の定義

定義 3.1.

 \Phi実数体または複素数体としたときに、 X,Y \Phi上の線形空間とする。 Xの線形部分空間 X _ 0から Yへの作用素 Tが以下の二つの条件を満たすときに、 T X _ 0から Yへの線形作用素とする。

  1.  T(x _ 1+x _ 2)=Tx _ 1+Tx _ 2 (x _ 1,x _ 2 \in X _ 0)
  2.  T(\alpha x) = \alpha T(x) (x \in X _ 0, \alpha \in \Phi)

定理 3.1.

 T X _ 0から Yへの線形作用素ならば、 Tの値域 R(T) Yの線形部分空間である。

証明は、多分容易。

3.2. 連続性と有界

有界線形作用素という概念が関数解析では非常に重要。

定義 3.2.

ノルム空間 Xからノルム空間 Yへの線形作用素において、収束点列を収束点列に移すとき、連続という。

このような線形作用素連続作用素と呼ぶ。

定義 3.3.

 X Yをノルム空間とする。 Xから Yへの線形作用素 T有界であるとは、ある定数 c (\geq 0)が存在し、

 ||Tx|| \leq c||x||

を満たすことである。このような線形作用素有界線形作用素と呼ぶ。

さて、連続と有界を定義したが、実はこの二つは線形作用素においては同値である。

定理 3.2.

 Tをノルム空間 Xからノルム空間 Yへの線形作用素とすると、次の3条件は互いに同値。

  1.  Tはある1点 x _ 0で連続。
  2.  Tは連続。
  3.  T有界
証明の方針

 1 \Rightarrow 2 x _ 0に適当に Xの元を足してあげることで X全体で連続であることが言える。逆は明らか。 2 \Rightarrow 3は、背理法を使い、 Xで収束するが Tで移されたあとの Yの点列は収束しないようなものを構成。 2 \Leftarrow 3 cで抑えられることを利用。

定義 3.4.

Tをノルム空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素とする。このとき、ある定数 c \geq 0が存在して、

 ||Tx|| \leq c||x|| (x \in X)

を満たす。このような cの最小値を作用素 Tのノルムといい、 ||T||と書く。

なんとなく直観的に分かりにくい(自分は初学のときにはそう思った)ものだが、 Tx (t,x)みたいな内積に置き換えてみて、 ||t||を求めるにはどうしたらいいか思案してみるとよいかもしれない。

定理 3.3.

 X _ 0をノルム空間 Xの稠密な線形部分空間とし、 T X _ 0からBanach空間 Yへの有界線形作用素とする。このとき、次の条件を満たす Xから Yへの有界線形作用素 \overline{T}がただ一つ存在する。

 \overline{T}x = Tx (x \in X _ 0),  ||\overline{T}||=||T|| (= \sup _ {||x|| \leq 1, x \in X _ 0} ||Tx||)

証明の方針

 x \in X \backslash X _ 0について、 xに収束する X _ 0の点列 x _ nをとって、 Tx _ nの収束先を \overline{T}xとする。

留意点… Tx _ n x _ nの選び方に依らないところ。

3.3. 逆作用素

作用素の定義はそのまんま。

定理 3.4.

 T X _ 0 Xの線形部分空間)から Yへの線形作用素ならば

  1.  T^ {-1}が存在する \Leftrightarrow (Tx=0 \Rightarrow x=0)
  2.  T^ {-1}が存在すれば、 T^ {-1} R(T)から Xへの線形作用素

証明の方針

単射性を使う。線形作用素であることは定義よりほぼ従う。

系 3.5.

ノルム空間 Xからノルム空間 Yへの線形作用素 T有界な逆作用素 T^ {-1}を持つための必要十分条件は、

 ||Tx|| \geq c||x|| (x \in X)

を満たす正の定数 cが存在することである。

証明の方針

 \Leftarrowは、定理3.4.を使い、 \Rightarrowの方は有界性を用いる。

3.4. 作用素の和と積

作用素にもノルムが定義できた。和とスカラー倍も容易に定義できる。積は合成のこと。

系 3.6.

 ||T _ 1 + T _ 2|| \leq ||T _ 1|| + ||T _ 2||など

ノルム空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素全体を B(X,Y)と表すと、ノルム空間になっている。

定理 3.7.

特に YがBanach空間ならば、 B(X,Y)はBanach空間。

証明の方針

 ||T _ {n} x - T _ {m} x|| \leq ||T _ n - T _ m||||x||を使うとよい。

特に X=Yのとき、 B(X)と書く。ここで、 S,T \in B(X)の積を合成で定義する。すると以下が成り立つ。

  1. 結合法則
  2. 分配法則。
  3.  (\alpha S) (\beta T)=\alpha \beta ST

このような積が定義される線形空間をアルジブラという。代数と敢えて書かないのは筆者のこだわりだろうか?

また、 B(X)では恒等作用素 Iが乗法単位元になっている。

また、 ||I||=1, ||ST|| \leq ||S|||||T||

このようにアルジブラでかつ、乗法単位元を持ち上記不等式を満たすBanach空間をBanachアルジブラという。 XがBanach空間の時、 B(X)はアルジブラ。

 B(X)の元 Tの累乗も容易に定義可能。

定理 3.8.

Banach空間 Xに関し、 T \in B(X) ||I-T|| \lt 1を満足するとき、 T^ {-1}が存在し、それは有界線形作用素である。そして、

 T^ {-1} = \sum^ {\infty} _ {n=0} (I-T)^ {n}

 ||T^ {-1}|| \leq (1-||I-T||)^ {-1}

が成り立つ。これをNeumannの級数と言う。

証明の方針

 ||I-T|| \lt 1より、Neumannの級数 B(X)内に収束することは言える。 Tとの積が Iに収束することを示せればよい。

 \frac{1}{x}のTaylor展開っぽい。

3.5. 線形作用素の例

例 3.1.

行列は有界線形作用素

例 3.2.

 l^ pから l^ qの無限次行列は 1/p + 1/q = 1のとき、Holderの不等式より、有界線形作用素

例 3.3.

例3.3.の連続化といえる L^ p(a,b)から L^ q(a,b)への線形作用素

 K(s,t)

 1/p + 1/q = 1のとき、Holderの不等式より、有界線形作用素

例 3.4.

微分作用素


線形作用素の導入。まだまだ基本だが、なかなか分量が増えてきた。次はいよいよ一様有界性定理などの関数解析の有名定理が出てくる。

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