宮寺関数解析を読む⑤ 線形汎関数

演習問題もやっていかないといけないな。

☍5 線形汎関数

5.1 線形汎関数の定義

定義 5.1.

線形汎関数線形空間から係数体への線形作用素

連続、有界などの定義もそのまま輸入できる。

定理 5.1.

 fをノルム空間 Xで定義された線形汎関数とする。以下の三つは同値。

  1.  fはある一点で連続。
  2.  fは連続。
  3.  f有界

証明の方針

定理 3.2.より従う。

さらに |f(x)| \leq ||f|| ||x|| (x \in X) ||f||=\sup _ {||x|| \leq x} |f(x)|も成立。

5.2. 幾何学的性質

線形汎関数幾何学的性質を調べる。線形空間 Xで定義された線形汎関数 fに対して、

 N _ {f} = \{x \in X: f(x)=0 \}

これは Xの線形部分空間。

定理5.2.

 X線形空間とする。

  1.  f Xで定義された線形汎関数で、恒等的に 0でないものとする。 x _ 0 \in N _ fとすると、任意の元 x \in X x = z + \alpha x _ 0 (z \in N _ {f}, \alpha \in \Phi)という形で一意に表せる。
  2. 逆に N X自身ではない Xの線形部分空間とし、 x _ 0 Nに含まれていないとする。任意の元 x \in X x = z + \alpha x _ 0 (z \in N, \alpha \in \Phi)という形で一意に表せるとき、 N _ f = Nとなるような線形汎関数が存在。

証明の方針

1について、 z,\alphaを構成するのは難しくない。一意性は二つの z, \alphaを等号で結んで fを作用されたりすれば分かる。

2については、 f(x)= \alpha _ xとおけば線形汎関数になっている。

 N _ f + x _ 0を超平面と呼称。 \{x \in X: f(x)=f(x _ 0 ) \}と表せる。

定理 5.3.

 fはノルム空間 Xで定義された線形汎関数とする。 f有界であるための必要十分条件は、 N _ f = \{ x \in X:f(x)=0 \}閉集合となることである。

証明の方針

 \Rightarrow有界と連続が同値であることを使うとよい。 \Leftarrowは超平面を使う。

定理5.4.

 fはノルム空間 Xで定義された有界線形汎関数であり、恒等的に 0でないとする。 M _ f = \{ x \in X: f(x) = 1 \}とおき、原点 0とこの超平面 M _ fとの距離を dとすると、

 ||f||= 1/d

証明の方針

定理5.3.で使った論法と同様。

系5.5.

 Xはノルム空間とする。

  1.  M Xの閉線形部分空間ならば、任意の x _ 0 \in Xに対して \{ z+\alpha x _ 0 : z \in M, \alpha \in \Phi \} Xの閉線形部分空間。
  2.  M Xの閉線形部分空間、 V Xの線形部分空間でかつ有限次元ならば、 M+V = \{ z+v:z \in M, v \in V \} Xの閉線形部分空間。

証明の方針

1について、 z+\alpha x _ 0と表すと、 z \alphaもCauchy列が収束する集合に属することに注意。

2については1と同じ論法で帰納法

このあたりで線形代数を思い出す。

5.3. 線形汎関数の例

例5.1.

 \{ \eta _ n : n=0,1,2,... \} \in lに対し

 f(x)=\xi _ 0 \eta _ 0 + \sum _ {i=1}^ {\infty} \xi _ {i} \eta _ {i}

 (x = \{ \xi _ n \} \in (c), \xi _ 0 = \lim _ {n \to \infty} \xi _ n)

有界線形汎関数

例5.2.

 l _ p , l _ qについても例5.1.と同様に定義可能。

例5.3., 5.4.

連続バージョンも同様。(積分はRiemann-Stieltjes式)

宮寺関数解析を読む④ 一様有界性、開写像、閉グラフ定理

いよいよ有名定理が出て来て最初の山場に入ってきたことを感じる。

一様有界性、開写像、閉グラフ定理

4.1. 一様有界性定理

Baireのカテゴリー定理から入る

Baireのカテゴリー定理

 Xを完備な距離空間とする。 Xの可算個の閉部分集合 X _ 1, X _ 2, ... ,X _ n, ... Xを覆っているとき、少なくとも一つの X _ n Xの開球を含む。

証明の方針

背理法でスタート。 X _ nのどれにも含まれない点に収束する点列を構成することができる。

開球を含まないレベルの小さすぎる閉部分集合可算個だけでは、完備な距離空間を覆いつくすのは不可能ということだろう。

それでは次に一様有界性定理のに入ろう。

定理 4.1.

 Aを無限集合とする。 T _ a, a \in AがBanach空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素とする。このとき

 \forall x \in X:\sup _ {a \in A} ||T _ a x|| \lt \infty \Rightarrow \sup _ {a \in A} ||T _ a|| \lt \infty

証明の方針

 T _ aをおさえる定数をBaireのカテゴリー定理を適用できる集合族を構成することで示す。 X _ n = \{x \in X : \sup _ {a \in A} ||T _ n x|| \leq n \}とするとよい。

定理 4.2.

 T _ n, n=1,2,...はBanach空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素の列とする。すべての x \in Xに対して \lim _ {n \rightarrow \infty} T _ n xが存在すれば、 \{||T _ n||\}有界数列でかつ、 Tx = \lim _ {n \rightarrow \infty} T _ n xとおくと、 TはXからYへの有界線形作用素

 |T|| \leq \liminf _ {n \rightarrow \infty} ||T _ n|| (x \in X)

証明の方針

前段は一様有界性定理より明らか。後段については

 ||Tx|| = \lim _ {n \rightarrow \infty}||T _ n x|| \leq (\liminf _ {n \rightarrow \infty}||T _ n||)||x||を利用。(前半の等式は三角不等式とかで ||Tx||-||T _ n x||を評価してあげたりして示す)

定理 4.3. Banach-Steinhausの定理

 T _ n, n=1,2,...をBanach空間 XからBanach空間 Yへの有界線形作用素の例とし、 X _ 0 Xの稠密な部分集合とする。 \sup _ n ||T _ n x|| \lt \infty (x \in X)かつ各 x \in X _ 0に対して \lim _ {n \to \infty} T _ n xが存在すれば次の1,2が成立する。

  1. 全ての x \in Xに対して \lim _ {n \to \infty} T _ n xが存在する。
  2.  T x = \lim _ {n \to \infty} T _ n x (x \in X)とおくと、 T Xから Yへの有界線形作用素で、 |T|| \leq \liminf _ {n \rightarrow \infty} ||T _ n|| (x \in X)が成立。

証明の方針

1について一様有界性定理から、 ||T _ n||の数列はある定数でおさえられる。稠密性から、 x \in Xにおいて、 T _ n xがCauchy列であることを示して、 YBanach空間であることを利用する。

次は開写像定理にいこう。

4.2. 開写像定理

補助定理4.4.

 TをBanach空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素とする。 Xの単位球 S _ X (0,1)=\{x\in X : ||x|| \lt 1 \} Tによる像 TS _ X (0,1)の閉包が Yのある原点中心の開球 S _ Y (0,r) (r \gt 0)を含むならば、 TS _ X (0,1) \supset S _ Y (0,r)である。

証明の方針

 S _ X (0,1+\epsilon)の点 x y \in S _ Y (0,r)に関し y=Txを満たすようなものを数列の極限として構成できる。

定理 4.5. 開写像定理

 X,YをBanach空間とする。 T Xから Yの上への有界線形作用素ならば、 Xの任意の開集合 G Tによる像 TG Yの開集合である。

証明の方針

 \forall \rho, \exists \rho' {\rm s.t. } TS _ X (0, \rho) \supset S _ Y (0,\rho')を示す。Baireのカテゴリー定理も使う。

  • Banach空間からBanach空間への有界線形作用素は開集合を開集合に移す。

定理 4.6.

 X,YをBanach空間とする。 T Xから Yへの1対1、かつ上への有界線形作用素であるならば、逆作用素 T^ {-1} Yから Xへの有界線形作用素である。

証明の方針

写像定理を使う。連続作用素有界作用素の同値性を思い出そう。

4.3. 閉作用素

定義4.1.

 X,Yをともにノルム空間とし、 x \in X, y \in Yの対 [x,y]の全体 \{[x,y: x \in X, y \in Y\}]に線形演算とノルムを導入できて、ノルム空間にできる。( ||[x,y|| = ||x||+||y||])これを X Y直積空間といい、 X \times Yと書く。 X,YがBanach空間ならば、 X \times YもBanach空間。

定理 4.2.

 X,Yをノルム空間、 T D(T) \subset X, R(T) \subset Yとなる線形作用素とする。このとき、 G(T)=\{[x,Tx \in X \times Y ;x \in D(T)\}]の集合を Tグラフという。

 G(T) X \times Yの閉線形部分集合であるとき、 T作用素という。

定理 4.7.

 X,Yをノルム空間、 T D(T) \subset X, R(T) \subset Yを満たす線形作用素とする。 Tが閉作用素であるための必要十分条件は、

 x _ n \in D(T) (n=1,2,...), \lim _ {n \to \infty} x _ n = xかつ、 \lim _ {n \to \infty} Tx _ n = yならば必ず x \in D(T)でかつ、 Tx = yである。

  • 収束先が存在すれば、それらは D(T), R(T)に含まれているということ。

証明の方針

 \lim _ {n \to \infty} [x _ n , y _ n = [x,y]]

例 4.1.

有界区間 [a,b]で定義された1回連続微分可能な実数値関数の全体を Dとし、それに関して定義された微分作用素有界ではないが閉作用素である。

定理 4.8.

 X,Yはノルム空間、 T D(T) \subset X, R(T) \subset Yとなる線形作用素とする。

  1.  T有界かつ D(T)閉集合ならば、 Tは閉作用素
  2.  Tが閉作用素 T^ {-1}が存在すれば、 T^ {-1}も閉作用素

証明の方針

1について。閉集合ならば、収束する点列の収束先が D(T)に入ることが保証されているので、 y \in R(T)有界性から示せばよい。

2について。定理4.7.を用いて、閉作用素であることと同値な命題に言い換えるとやりやすい。

定理 4.9. 閉グラフ定理

 X,YをBanach空間とし、 T D(T) \subset X, R(T) \subset Yとなる閉作用素とする。 D(T)=X \Rightarrow T有界

証明の方針

 [x,Tx \in G(T)]を xに対応させる線形作用素について考える。


基本的な道具なのでソラで証明を言えるぐらいにはなっておきたいところ。使い方にも習熟しなくては。

次号

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宮寺関数解析を読む③ 線形作用素

線形作用素のお話。基礎作り。

第2章 線形作用素

☍3. 線形作用素

3.1. 線形作用素の定義

定義 3.1.

 \Phi実数体または複素数体としたときに、 X,Y \Phi上の線形空間とする。 Xの線形部分空間 X _ 0から Yへの作用素 Tが以下の二つの条件を満たすときに、 T X _ 0から Yへの線形作用素とする。

  1.  T(x _ 1+x _ 2)=Tx _ 1+Tx _ 2 (x _ 1,x _ 2 \in X _ 0)
  2.  T(\alpha x) = \alpha T(x) (x \in X _ 0, \alpha \in \Phi)

定理 3.1.

 T X _ 0から Yへの線形作用素ならば、 Tの値域 R(T) Yの線形部分空間である。

証明は、多分容易。

3.2. 連続性と有界

有界線形作用素という概念が関数解析では非常に重要。

定義 3.2.

ノルム空間 Xからノルム空間 Yへの線形作用素において、収束点列を収束点列に移すとき、連続という。

このような線形作用素連続作用素と呼ぶ。

定義 3.3.

 X Yをノルム空間とする。 Xから Yへの線形作用素 T有界であるとは、ある定数 c (\geq 0)が存在し、

 ||Tx|| \leq c||x||

を満たすことである。このような線形作用素有界線形作用素と呼ぶ。

さて、連続と有界を定義したが、実はこの二つは線形作用素においては同値である。

定理 3.2.

 Tをノルム空間 Xからノルム空間 Yへの線形作用素とすると、次の3条件は互いに同値。

  1.  Tはある1点 x _ 0で連続。
  2.  Tは連続。
  3.  T有界
証明の方針

 1 \Rightarrow 2 x _ 0に適当に Xの元を足してあげることで X全体で連続であることが言える。逆は明らか。 2 \Rightarrow 3は、背理法を使い、 Xで収束するが Tで移されたあとの Yの点列は収束しないようなものを構成。 2 \Leftarrow 3 cで抑えられることを利用。

定義 3.4.

Tをノルム空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素とする。このとき、ある定数 c \geq 0が存在して、

 ||Tx|| \leq c||x|| (x \in X)

を満たす。このような cの最小値を作用素 Tのノルムといい、 ||T||と書く。

なんとなく直観的に分かりにくい(自分は初学のときにはそう思った)ものだが、 Tx (t,x)みたいな内積に置き換えてみて、 ||t||を求めるにはどうしたらいいか思案してみるとよいかもしれない。

定理 3.3.

 X _ 0をノルム空間 Xの稠密な線形部分空間とし、 T X _ 0からBanach空間 Yへの有界線形作用素とする。このとき、次の条件を満たす Xから Yへの有界線形作用素 \overline{T}がただ一つ存在する。

 \overline{T}x = Tx (x \in X _ 0),  ||\overline{T}||=||T|| (= \sup _ {||x|| \leq 1, x \in X _ 0} ||Tx||)

証明の方針

 x \in X \backslash X _ 0について、 xに収束する X _ 0の点列 x _ nをとって、 Tx _ nの収束先を \overline{T}xとする。

留意点… Tx _ n x _ nの選び方に依らないところ。

3.3. 逆作用素

作用素の定義はそのまんま。

定理 3.4.

 T X _ 0 Xの線形部分空間)から Yへの線形作用素ならば

  1.  T^ {-1}が存在する \Leftrightarrow (Tx=0 \Rightarrow x=0)
  2.  T^ {-1}が存在すれば、 T^ {-1} R(T)から Xへの線形作用素

証明の方針

単射性を使う。線形作用素であることは定義よりほぼ従う。

系 3.5.

ノルム空間 Xからノルム空間 Yへの線形作用素 T有界な逆作用素 T^ {-1}を持つための必要十分条件は、

 ||Tx|| \geq c||x|| (x \in X)

を満たす正の定数 cが存在することである。

証明の方針

 \Leftarrowは、定理3.4.を使い、 \Rightarrowの方は有界性を用いる。

3.4. 作用素の和と積

作用素にもノルムが定義できた。和とスカラー倍も容易に定義できる。積は合成のこと。

系 3.6.

 ||T _ 1 + T _ 2|| \leq ||T _ 1|| + ||T _ 2||など

ノルム空間 Xからノルム空間 Yへの有界線形作用素全体を B(X,Y)と表すと、ノルム空間になっている。

定理 3.7.

特に YがBanach空間ならば、 B(X,Y)はBanach空間。

証明の方針

 ||T _ {n} x - T _ {m} x|| \leq ||T _ n - T _ m||||x||を使うとよい。

特に X=Yのとき、 B(X)と書く。ここで、 S,T \in B(X)の積を合成で定義する。すると以下が成り立つ。

  1. 結合法則
  2. 分配法則。
  3.  (\alpha S) (\beta T)=\alpha \beta ST

このような積が定義される線形空間をアルジブラという。代数と敢えて書かないのは筆者のこだわりだろうか?

また、 B(X)では恒等作用素 Iが乗法単位元になっている。

また、 ||I||=1, ||ST|| \leq ||S|||||T||

このようにアルジブラでかつ、乗法単位元を持ち上記不等式を満たすBanach空間をBanachアルジブラという。 XがBanach空間の時、 B(X)はアルジブラ。

 B(X)の元 Tの累乗も容易に定義可能。

定理 3.8.

Banach空間 Xに関し、 T \in B(X) ||I-T|| \lt 1を満足するとき、 T^ {-1}が存在し、それは有界線形作用素である。そして、

 T^ {-1} = \sum^ {\infty} _ {n=0} (I-T)^ {n}

 ||T^ {-1}|| \leq (1-||I-T||)^ {-1}

が成り立つ。これをNeumannの級数と言う。

証明の方針

 ||I-T|| \lt 1より、Neumannの級数 B(X)内に収束することは言える。 Tとの積が Iに収束することを示せればよい。

 \frac{1}{x}のTaylor展開っぽい。

3.5. 線形作用素の例

例 3.1.

行列は有界線形作用素

例 3.2.

 l^ pから l^ qの無限次行列は 1/p + 1/q = 1のとき、Holderの不等式より、有界線形作用素

例 3.3.

例3.3.の連続化といえる L^ p(a,b)から L^ q(a,b)への線形作用素

 K(s,t)

 1/p + 1/q = 1のとき、Holderの不等式より、有界線形作用素

例 3.4.

微分作用素


線形作用素の導入。まだまだ基本だが、なかなか分量が増えてきた。次はいよいよ一様有界性定理などの関数解析の有名定理が出てくる。

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宮寺関数解析を読む② Banach空間の例

Banach空間の例の紹介ののち、Hilbert空間が定義される。なぜLebesgue積分解析学的に取り扱いやすいのかというのも、ここで定義される関数空間なんかを見るとわかったり。

☍2 Banach空間の例

☍1においてBanach空間が定義されたが、ここではBanach空間の例を見て行く。

2.1. 数列空間

例2.1.

空間 R^ n

 n次元Euclid空間

各成分の二乗和の平方根をノルムとする。Minkowskiの不等式によって、三角不等式が示せる。

 (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i + \eta _ i|^ p)^ {1/p} \leq (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ p)^ {1/p} + (\sum^ {n} _ {i=1}|\eta _ i|^ p)^ {1/p} (p \geq 1)

さらにこれはノルムに関して完備。この証明は各成分が実数であるので、各成分に着目し実数の完備性を利用すればよい。

複素数も同様

例2.2.

実数列全体の集合は各項の和とスカラー倍を定義することで簡単に実線形空間にできる。

これの線形部分空間について考えていく。

収束実数列全体の集合を (c)と書く。ノルムを数列の上限とすると、これは実Banach空間になる。完備性を示すにはこれも各成分に注目し、実数の完備性を利用して収束先の実数列が存在することを示す。さらに、その実数列が収束列であることを示せばよい。

例2.3. (空間 l^ {p} (1 \leq p \lt  \infty))

 \sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ pを満たす実数列 x = \{\xi _ i\}全体の集合。Minkowskiの不等式から実線形空間であることが分かる。ノルムを以下で定義する。

 ||x|| = (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ p)^ {1/p}

これにより実Banach空間になる。Cauchy列の収束先は各項の収束を利用して存在を示す。収束先が l^ pに含まれる証明は、収束先とCauchy列中の点の差が l^ pに含まれることを利用。

例2.4. ( l^ {\infty})

有界な実数列 x=\{ \xi _ i \}に対し、 ||x|| = \sup _ {x} |\xi _ i|でノルムを定義。これはBanach空間になる。

Jensenの不等式 (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ q)^ {1/q} \leq (\sum^ {n} _ {i=1}|\xi _ i|^ p)^ {1/p} (0\lt p \leq q\lt \infty)より、 (l^ q) \subset (l^ p)  \subset (c) \subset (l^ \infty)

2.2. 関数空間

例2.5 (空間 C[a,b])

有界区間 [a,b]で定義された実数値連続関数の全体。実線形空間にできる。数列空間の連続バージョン。

ノルムを上限で定義すると実Banach空間になる。数列空間と証明の戦略は基本的には変わらない。閉区間なのは上限の存在を保証するため。

例2.6. (空間 L^ p (a,b) 1 \leq p \lt  \infty)

区間 (a,b)において定義された可測関数 x(t)が、

 \int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt \lt  \infty

を満たすとき、p乗Lebesgue積分可能という。このような関数全体の集合はノルムを ||x|| = (\int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt)^ {1/p}とするとBanach空間になる。これも連続版のMinkowskiの不等式等を通じて示すことができる。Cauchy列の収束先がp乗Lebesgue積分可能であることはFatouの補題、優収束定理で示す。関数の極限を取ったときの操作のしやすさがLebesgue積分のよいところである。

例2.7. (空間 L^ {\infty}(a,b))

本質的有界とは測度0の集合を除外したところで有界であることである。 \mathfrak{N} (a,b)に含まれる測度0の集合の集合族とすると、本質的上限は。

 \rm{ess} \sup _ {t \in (a,b)} |x(t)| = \inf _ {N \in \mathfrak{N}} \sup _ {t\in(a,b) \backslash N} |x(t)|

と定義される。 (a,b)で定義された可測かつ本質的有界な実数値関数全体の集合を L^ {\infty}(a,b)で表し。本質的上限をノルムとするとBanach空間となる。

ここまで、関数空間を見てきたが、 (a,b)有界区間のとき数列空間とは逆の包含関係が成立する。Hölderの不等式

 \int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt \leq (\int^ {b} _ {a} |x(t)|^ p dt)^ {1/p} (b-a)^ {1-p/q} \lt  \infty

2.3. Hilbert(ヒルベルト)空間

いよいよHilbert空間の登場である。Hilbertといえば20世紀初頭の数学をリードした大数学者で、形式数学を強力に推進し、今日の数学のあり方に大きな影響を及ぼした人物だ。関数解析でもこのHilbert空間は主要な研究対象として大きなウェイトを占める。

定義2.1.

内積の定義。

複素線形空間 Xの任意の2元の組 \{x,y\}と実数 (x,y)が対応し、以下の条件を満たすとき、この実数を x y内積という。

  1.  (x,x) \geq 0 : x=0 \Leftrightarrow (x,x)=0
  2.  (x,y) = \overline{(y,x)}
  3.  (x+z,y)=(x,y)+(z,y)
  4.  (\alpha x,y) = \alpha (x,y)

このような内積の定義された空間を内積空間という。

高校のベクトルからの付き合いのあの内積の一般化。実線形空間でも同様に定義可能。

この内積に関してもSchwarzの不等式が成立する。

 |(x,y)| \leq \sqrt{(x,x)(y,y)}

証明はややテクニカル。

 (x+ \lambda (x , y) y,x+ \lambda (x,y) y)が任意の実数 \lambdaに対して0以上であることを利用する。

ここで、 ||x||=\sqrt{(x,x)}とすると、これはノルムの公理を満たす。 ||x+y|| \leq ||x|| + ||y||はSchwarzの不等式から導ける。

定理 2.2.

ノルム空間 Xにおいて、 ||x||=\sqrt{(x,x)}となるような内積を定義できる必要十分条件は、 \forall x,y \in Xに対して、

 ||x+y||^ 2 + ||x-y||^ 2 = 2 ||x||^ 2 + 2||y||^ 2

が成り立つことである。

証明法は、仮にそのような内積が存在すればノルムのみでどのような形で表されるかを考えてあげればわかる(多分)。スカラー倍の部分だけ、有理数倍、実数倍へと拡張する議論が必要。

定義 2.2.

内積空間 Xがノルム ||x||=\sqrt{(x,x)}に関して完備であるとき、 XHilbert空間という。

例 2.8.

 l^ 2 L^ 2(a,b)はHilbert空間。他にはユニタリー空間やEuclid空間も。


余談

はてなLaTeXがこんなに不自由だったとは。

いろいろ処理に苦労しました。

次号

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宮寺関数解析を読む① Banach空間

解析学の基礎体力が不足しているので、ゆっくりと復習していく。

宮寺関数解析

目標:関数解析の復習

第1章 Banach空間

☍1. Banach(バナッハ)空間の定義

1.1. 線形空間

定義 1.1. 線形空間

まずはお馴染みの線形空間の定義について復習。

要点は下記の二つ。

  1. 集合 X +に関してアーベル群になっている。
  2. 複素数体実数体 \Phiの元と Xの元の積(スカラー倍)が定義されており、 \forall \alpha , \beta \in \Phi \forall x, y \in Xに関して以下が成り立つ。
  3.  1x = x
  4.  (\alpha \beta) x = \alpha (\beta x)
  5.  \alpha (x+y) = \alpha x + \alpha y, (\alpha + \beta) x = \alpha x + \beta y

定義 1.2.

線形空間 Xの空でない部分集合が、和とスカラー倍に関して閉じているときに、線形部分空間という。

定義 1.3.

 S Xの空でない部分集合として、 Sの任意有限個の元の一次結合全体の集合を Sによって張られる線形部分空間という。

定義 1.4.

一次従属、一次独立。

定義 1.5.

線形空間 Xにおいて、任意の自然数 nに対して n個の一次独立な元が存在するとき、 X無限次元であるといい、そうでないとき有限次元であるという。

 Xが有限次元で 0以外の元を持つのであれば、次の条件を満足する自然数 nが存在する。

 Xの中に一次独立な n個の元が存在し、かつ Xのいかなる n+1個の元も一次従属である。

この n X次元という。

 {0}で表される線形空間 0次元とする

1.2. Banach空間

関数解析ではノルムという概念が中心的な役割を果たすが、Banach空間はそのノルムから定まる距離に関して完備性を満たすものである。

定義1.6. ノルム空間

線形空間 Xの各元 xに関して実数 ||x||が対応し、以下の三つの条件を満足するとき、 ||x|| xノルムといい、 Xノルム空間という。 \forall x,y \in X,  \forall \alpha \in \Phi

  1.  ||x|| \geq 0, ||x||=0 \leftrightarrow x=0
  2.  ||\alpha x|| = |\alpha | ||x||
  3.  ||x+y|| \leq ||x|| + ||y||

 d(x,y) = ||x-y||とすれば、これは距離の公理を満たす。

ここから、収束極限などの概念がノルム空間に導入される。

その後集積点閉包閉集合 \epsilon近傍開球閉球開集合などの位相的な概念を導入。

 X_1 \subset X_0 \subset Xとする。 X_1の閉包が X_0を含むとき、 X_0 X_1において稠密であるという。 Xが稠密な可算部分集合をもつとき、 X可分という。

ノルム空間の部分集合でノルムの上限が有界であるような集合は有界であるという。

定理1.1.

基本的な極限に関する性質。

定義 1.8.

ノルム空間の線形部分空間は元のノルムに関してノルム空間になっている。線形部分空間かつ閉集合であるものを閉線形部分空間という。

定理 1.2.

 Mをノルム空間 Xの線形部分空間とすると、 Mの閉包 \bar{M}は閉線形部分空間。

証明

 \bar{M}閉集合線形部分空間であることを示せばよい。定理1.1.の極限の性質を活用。

定義 1.9.

張られる閉線形部分空間

定義 1.10.

Cauchy点列

 \lim_{m,n \to \infty}||x_m - x_n||=0を満たす点列。

定義 1.11. Banach空間

ノルム空間 Xにおいて、任意のCauchy点列が Xの点に収束するとき、 X完備であるという。完備なノルム空間のことをBanach空間という。


次回:

rikein12.hatenablog.com

Juliaでブラウン運動②

さて、前回N(0.T)に従う乱数を発生させたところで終了したが、ブラウン運動らしく、ランダムウォークからT=100におけるブラウン運動の粒子の位置を表示しよう。

y = []
for i in 1:1000 #1000個の粒子を生成
    a=0 #初期位置は0
    for j in 1:1000 #今回はT=100に至るまでの時間を1000ステップに分割する。
      a += 2 * (abs(rand(Int))%2-0.5) * sqrt(T/1000) #sqrt(T/1000)であることに注意。+方向か-方向かはランダム。
    end
    push!(y,a) #yにaを加える。!マークがなんとなく見慣れないが、破壊的な関数(引数をいじるような関数)には!をつけるのがjuliaらしい。
end

df2 = DataFrame( 
    x = y
)

plot(df2, x="x", Geom.histogram(bincount=50)) #プロット

すると以下のように表示される。

f:id:rikein12:20181128204209p:plain
ステップ数1000で生成したブラウン運動

ブラウン運動のパスも見てみるが、一時休止。

群論入門② 環・体の定義

群論入門①の続き。この雪江先生の本は群論入門とあるが代数学を一通り学ぶためのシリーズの一つということで環や体の定義も出てくるらしい。

定義 1.2.1 (環)
集合Rに二つの演算+と×が定義され、以下の性質を満たすとき、Rを環(ring)と呼ぶ。a×bは便宜上abと記す。
(1) +に関してRはアーベル群である。
(2) ×に関して結合法則が成り立つ。
(3) +と×の間に分配法則が成り立つ。すなわち∀a,∀b,∀c∈Rに対し
a(b+c)=ab+ac (a+b)c=ac+bc
(4) ×に関して単位元が存在する。すなわち、∃e∈R s.t. ∀a∈R, ae=ea=a, このようなeを1Rなどと記す。

要するに+に関してアーベル群、×に関してモノイド、そして+と×の間に分配法則という関係が成り立つということである。環は整数を一般化したものと言われ、素数など整数論上重要なものを一般化した概念がよく出てくる。実際ℤは環である。
さらに×に関して可換則が成立すれば可換環である。また、×に関して逆元が存在するような元を単元という。環の単元全体の集合をとってくればこれは×に関して群をなしており、しれを乗法群という。
環の例には自明な環というものがあり、{0}は環になる。+の単位元と×の単位元が一致する唯一の環である。証明は、+の単位元とxの単位元が一致すると仮定し、∀a∈Rに対して、a0=a(0+0)=a0+a0よりa0=0a=0が成立すると示し、さらに×の単位元の性質からa0=aが示せるので、Rの任意の元が0であることが示せる。逆は明らかである。


定義 1.2.2(体)
集合Kが環であり、以下の性質を満たすとき、K(field)を体という。
(1) Kの0以外の元は単元である。
(2) ×に関して可換である。
(2)が成立しないようなものを斜体という。

ℚ,ℝ,ℂは体である。

また、環ℤ/nℤの定義などがしてある。

全体としてさらっとしていて、次からまた群の話題に戻るので本当に顔見せ程度のようだ。